小説 ピアノ演奏(7) 2020年10月12日 テンポ、拍子、間の取り方、この三点においてベートーベンの32曲のソナタの中でも最も特色の強い曲と言われ、この中期の作品には最終的に第30番31番32番にて完結するソナタを学ぶ上で、必要なすべての要素が納められている。また、ベートーベンの特徴といえる「曲の構成」は哲学的であり、ゆえに彼の自問自答と苦悩を繰り返しながら自ら...
小説 ピアノ演奏(6) 2020年9月21日 「昭子さん」 舞台では始祭の挨拶が地域代表有力者によって繰り広げられ、昭子はかたむけるでもなく耳をかたむけ終わるのを待っていた。 「私の指示に従って舞台にでるんよね」Gは言う。 代表者「・・・実は私は今日、先程まで昭子さんがなんの曲を弾くのか知らされていなかったんです。昭子さんはいっぱい弾きたい曲があって、この話があっ...
小説 ピアノ演奏(5) 2020年9月7日 「昭子、舞台の準備が出来るまでまだ時間があるんだから、今のうちに少しピアノに触らしてもらっていたらどうなん」 「そう、これまでに昭子さんが弾いたことはあったにしても、それとは違って今日は皆さんにきちっとした形で聞いてもらうんだから。指ならしも含め、ピアノの状態をつかんでおくことも大切と思うんだけど」とGもすすめた。 思...
小説 ピアノ演奏(4) 2020年8月24日 静子もEも専門家ではないにしても、素養はあり、今なお愛好家として関わりを持ち続けている人物である。音楽を知り、昭子の年齢を知るものにとって、予想外の難曲であることは言うにまたない。それを晴れの舞台で弾こうというのである。昭子を知る母静子にしても、当然うまく弾きこなせるだろうか、その不安はあるにしても、よくよく昭子を知...
小説 ピアノ演奏(3) 2020年8月10日 2人が学校の校門をまたぐと運動場の校舎側にテントがはられ、出店のもうけられているのが見えた。 何をされているのかは分からないが、それなりの人だかりである。荷物を運ぶのに使われたのか、そばに一台のリアカー。 講堂はそれらの向こう側にあって、2人は近づいていく。 後ろから来る人。進むにつれ、顔見知りの人もあって会釈を交わす...
小説 ピアノ演奏(2) 2020年7月27日 昭子にとって、楽譜は単なる音符の羅列ではなく、その秘められた内なる内容を自然にくみ取れる才能を備えていて、曲の中での調整の変化、和音の展開、その動きの中での内声の要となる動き、全体の流れの中でも特に重要視しなければならない箇所とそうでないところ、本能的に読み取れる才能を備えていた。しかし、小さな手に離れた音を出さねばな...
小説 ピアノ演奏(1) 2020年7月13日 曲目は当然、行事の内容に華を添えるものが望まれたが、何よりも昭子の力量を最優先したうえでの選曲ということであった。 これまで、ピアニストになりたい。好きなだけにおぼろげではあったが、はっきりとした意識を持つにはいたっていなかった。が、こうして自分が人前で弾くチャンスを得られることによって、意識は自然に高まっていくのだっ...
小説 合唱の伴奏 - その後(3) 2020年6月15日 授業の終始サイレン。昭子は鉛筆描きのデッサンにとどめ置かねばならないことを無念におもいながらも教室へと向かう。教室入口すぐ右手、先生は教壇上に立ち、生徒たちの帰りを見守る。全員がそろったことを確かめると、「皆さん・・・・」と大きく「描きあげることができましたか」と声をあげ、教壇上の机の上に自分の手のひらを乗せ「描き上げ...
小説 合唱の伴奏 - その後(2) 2020年6月1日 創立明治6年6月6日万福寺という寺の一隅に新築された校舎、第19番中学区第10番松江小学校。その後、20年4月松江尋常小学校と改称され、大正15年3月松江村字宮西656番地字藪下652番地に校舎新築移転。昭和16年4月松江国民学校と改称される。そして22年4月、再度松江小学校と校名を戻す改称、学級数14、児童数686名...
小説 合唱の伴奏 - その後(1) 2020年5月11日 月日は流れ、初秋の好天に恵まれた午後、図画の授業時間。 「皆さん、今日は天気もいいし、これから始める図画の授業は外に出て自分の見たいものを見、描きたいものを描く、そうするのがいいと思えるんでそうしましょうか?」 機転の利く担任G先生らしい発想であった。 「それでは、絵描きの準備をし、校内で、また校外に見られるなんでもい...