「表現芸術家ピアニストの生き様」掲載中

  冬の日の入りは早く、夕方も6時となればあたりは暗く、公園の森をよぎり抜けるには危険がある、と不忍通りの遠回りをすることにした昭子。到着、文化会館の前には大勢の人だかりがあった。
公園通りに隔てられた上野駅から降り立ってくる人。その人たちに混じり昭子も入館する。
広いエントランスロビー。壁掛けに掛けられたピアノを弾く中村紘子の斜め横顔写真のポスター。その舞台で集中し、演じている顔は凛々しく、自分も立つであろう姿を重ね合わせ、楽しみの反面、ジェラシーにも似た気分がふっと浮かぶのを覚えた。のもつかの間、ホール入口付近のロビー全体をぐるりと見渡す。中の売店で買い物をしている人、手にチラシらしき物をかざし、立ち話にふけっているのであろう人、賑やいだロビーの様子があった。
昭子はそのロビーの人と人との合間を縫い、ホール入口へ向かい行き、中へと入る。潜り抜けてやや薄暗いホールの正面舞台には、これから中村紘子が奏する1台のピアノが据えられている。昭子は彼女の演奏の手が見え、より直接的な音を聞き取れる席としてX番を選んだ自分の席を入口に控える案内係の女性に、手を添え、目指し、確認にと尋ねる。
「すみません。」自分の半券を示し、「この席はあそこら辺りだと思うんですけど。」「ちょっとお見せ頂いてよろしいでしょうか。」受け取り確認するとともに、左前方の座席の方を見、「ご案内させていただきます。」そう言って、所作で付き従うことを示し、自身、客席通路を歩み始めた。
昭子の席は、通路側から4番目。端と次の席にはすでに人が座っていて、自席に着くのを一瞬昭子はためらった。

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