田園のソナタ(7)

 

束の間のこと、その2人の男性店員は、木枠にいれられたオルガンを抱え持ち、玄関先まで来る。
すると静子のいる前、土間にその荷物を置き、「すいません」・「どちらの方へ置かれますか・・」と指示をあおぐ。
「そうですね、お上がりいただいて」・・・「こちらのほうへ」と静子は手まねきをし、家内へ案内をする。
オルガンをそのままに、二人は静子に従い、置かれる部屋へと案内された。
父親によるプレゼントの話は聞かされていたとはいえ、実際に届けられたものをまのあたりにし、意外な思いを抱く昭子であった。
まずは、その大きさ。
これまでに与えられたおもちゃのプレゼントは、みな小さく、昭子が持ち運びできるもので、この度のベビーオルガンは、ベビーとはいえ、本物で大きく存在感があり、簡単に持ち運びできるようなものではなかった。形も昭子から見てそんな可愛いらしく思える様なものではなく、大人から見て、可愛らしさを感じさせられるところがあったとしても、本物としての厳かささえ備えている。
ましてやはじめての使用に、昭子一人でできるようなものでもなかった。しかし元々音楽好きで、教職につくにあたっての音楽について必要最小限の素養のある母静子にとって、昭子へのオルガンの手ほどきなど、さほど難しいことではなかった。持ち運んできてくれた二人の店員は帰り、それを前にした静子に昭子。二人の受け留めの印象に、違いはあったにしても、これから大いに役立つものになるであろうことは確かなことであった。

「昭子、今の貴女にとっては、ちょっと扱いの難しさはあるでしょうが、お母さんやお父さんの子なんだから・・
このオルガン、役立つことになるんでしょうね。ちょっと弾いてみてあげましょう。」
そう言うなり、これまで歌いきかせた「むうすうんで開いて、手を打ってむうすうんで・・」と弾き始めた。

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