小説 合唱の伴奏(9) 2020年2月3日 「それでは昭子ちゃん」先生の指示に、昭子は教壇の左横に置かれたピアノの前に弾く姿勢で腰かけた。昭子の見える位置に立つ先生、目線を交わし昭子は弾き始める。 ミファソーソ・ソーードと、一度の和声で始まるワルツ風のリズムを弾き始め、前奏の最後小節、オブリガート部を実に自然に、メロディを誘い出すに相応しい弾きこなしで終える。 ...
小説 24.合唱の伴奏(8) 2020年1月27日 またたく間の一週間。昭子にとって苦手な体操の授業が終わり、昼休みをはさんで気になる音楽授業の時間がやってきた。 音楽の授業ならいつも音楽室、という訳ではなく、しかし、今日は昭子とB子のピアノ演奏の弾き較べによる選別が行われる日である。学校にピアノといえば音楽室と講堂にしかなく、あえて音楽室での授業となるのであった。 昼...
小説 23.合唱の伴奏(7) 2020年1月20日 期間は一週間、中間部の連打、なんといっても52小節目の片手オクターブはちっちゃな手には音間が離れて広過ぎ、それでいて32分音符と続く早いパッセージは、昭子にとっては弾きこなすに難関な部分であった。 これまで、他の人がピアノを弾くのを気にしたことはない昭子であったが、成り行き上とはいえ、“自分の得意とする曲”、B子が何の...
小説 22.合唱の伴奏(6) 2020年1月13日 これまで一人娘で自分のしたいことだけに専念し、どちらかといえば他のことについてはのほほんと見過ごしてきた昭子であったが、同級生との比較、それも学級委員長との比較とあって、眠っていた競争心が今さらのように呼び覚まされてくる昭子であった。 「おばあちゃん、今度ある学習発表会、私たち『みかんの花咲く丘』の合唱をすることになっ...
小説 21.合唱の伴奏(5) 2019年12月23日 秋の文化行事、学習発表会が行われるにあたって昭子のクラスでは歌、先生としては伴奏をしながらの指導の手間、難しさよりも実際伴奏を含め全て生徒が行わなければならないこととして、ピアノ伴奏ができる者を募ることになった。 小学1年のときから仲良しになっていたA子は、昭子が家ではオルガンを弾き、X年生になった今日、ピアノレッスン...
小説 20.合唱の伴奏(4) 2019年12月16日 音楽の授業に、声出し、歌は付き物、ましてや個人所有の楽器などほとんど持つことのできない物不足の時代。授業といえば声を張り上げる、歌、合唱が大半を占め、その伴奏に据え置かれたピアノは、昭子にとっても気になる置物であった。 人数は少なかったにしても、弾ける者にとっては関心を抱かないではおれないピアノ、学級委員長のB子は顕示...
小説 19.合唱の伴奏(3) 2019年12月9日 A子の家は母親が運営する、食料品から多少の事務用品、なんでもありの個人雑貨商店であった。 「あらー昭子ちゃん来たん。おばちゃん待ってたん。A子から話聞いてたん。どうぞお入り」 昭子はA子に従い、商品が陳列されている通用路を抜け母屋へと導かれた。 「たいしたものはないんだけど」そう言いながらA子の母はお盆に商品のラムネと...
小説 18.合唱の伴奏(2) 2019年12月2日 ざわつく室内。入口方面から足音が近付いてきて、昭子を始め気付いた多くの生徒達の注意はそちらに向く。 ドアは開けられ、先生の入室と同時にざわつきは引き潮の如くおさまる。 先生は手持ちしていた手帳を教卓の上に置くと、教室全体を一巡するかのようにぐるりと目配りし、大きめの声で「皆さん」と声を上げた。「お掃除きれいにできたんよ...
小説 17.合唱の伴奏 2019年11月25日 火のない所に煙は立たない。昭子は自分がオルガンを弾きピアノレッスンを受けていることを親友A子に打ち明ける。まさかこの何気ない会話が起因となって、のちのち、いじめを受けることになるなど思いもよらぬことであった。 そのA子とは小学校入学以来の親友で、教室での席順は離れていても同じクラス。見た目に合う合いそうにない、勘の働き...
小説 16.レッスン(5) 2019年11月18日 ピアノ譜面台に広げられた本、バイエル第40番。「今日はここからだったんよね」先生は言われ、「昭子ちゃんがどんどん先までさらってきていることは分かってるんだけど、レッスンには時間帯というものがあるんだからね」 昭子は早速弾き上げる。 楽譜を見追い、弾き終えるのを見定められて先生は「特に問題はないんだけど、次の41番からは...