合唱の伴奏 - その後(1)

月日は流れ、初秋の好天に恵まれた午後、図画の授業時間。
「皆さん、今日は天気もいいし、これから始める図画の授業は外に出て自分の見たいものを見、描きたいものを描く、そうするのがいいと思えるんでそうしましょうか?」
機転の利く担任G先生らしい発想であった。
「それでは、絵描きの準備をし、校内で、また校外に見られるなんでもいいんだから、自分の思いを込め、思い通りに描いてきてください。」
「画用紙はこれから配りますから。」先生はそう言って、最前列の生徒に枚数を数えながら置いていく。
生徒たちは銘々の行動をとりはじめた。
昭子も持参していた絵具セットを机の引き出しから取り出し、準備をと思ったのだが、もってきたはずの絵の具筆が見つからない。『間違いなくもってきたはずなのに。』
昭子は困惑した。『これでは描き上げる事ができない。・・・先生に申し出、鉛筆描きのデッサンのみに留めるしかない。』
昭子はそのことを伝える為、教壇上にいる先生の方へと進み出る。
『気のせいかしら。』いたずらっ子で名を馳せているE君、なんとはなしに自分の動きを注視していることに気付く。
気の置けない人物で、これまでにも日頃からなるべく近づかないよう気遣いしていた人物であった。
注視されていたせいか、見まといしていたことが、却って見てしまうことになり昭子と目が合う。その眼つきには意図してなにかをした後の確認を見計らう、それも嘲るような眼つきであった。
「昭子ちゃん、カバンの中もしっかり探してみんと。」
もちろん、自分自身の身の周りの事について細やかに気をつける性格の彼女。カバンの中も探し、ない事の確認はしていたのだが、素直に「はい」と答え、自席に戻る。
もともと一人娘で自分と向き合うことをするのが好きな彼女。B子の思惑に依る孤立作戦、イジメのダメージはそれほどにはなく、むしろそのことによって、昭子はピアノ演奏に力を注ぎ入れ、上手くなって皆んなを見返させてやろう、そういった思いを募らせるのだった。実際に精力と時間をその事に注ぎ込むことが返って昭子のピアニストへの助長に繋がったといえるだろうか。

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