合唱の伴奏(11)

演奏が終わり、ざわついている中、先生が声をあげる。

 「皆さん」・・・とクラス全体を見渡し、「一生懸命弾いてくれた二人、甲乙つけがたい演奏だったと思うんですが、合唱曲は1曲、で、その伴奏者は一人、どうしてもどちらかにきめなければならんのよね。B子ちゃん、昭子ちゃん、先生が呼び上げるから、自分が弾いてもらいたい人の方に手を上げてもらいましょうかね。」

 『わかりましたか?』と言わぬばかり先生はクラス全体に目配りをする。

 「B子ちゃん」・・・パラパラ。

 圧倒的多数決で昭子に決まる。昭子は嬉しさと安堵に気になるB子の方をそっと覗き見た。何くわぬ顔で先生をと云うか、前方をというか、を見つめているB子。その心境いかに。

 

 午後。

 「ごちそうさまでした。」母や祖母からの躾、食するものをいただいた感謝の気持ち、弁当を食べ終えた昭子は手のひらを合わせ唱える。

 伴奏者選別で昭子は自分が選ばれ、その時には手を取り合い、喜びあってくれた親友のA子。

 「気のせいかしら?」そう思っていたA子の態度が気のせいでなかったことに気づかされることになるのであった。

 「A子ちゃん」思いがけない昭子の後ろからの声かけ。A子はビクッと顧みる。

 「ここんところいっしょに遊ぶことなかった思うんやけど、今日はうち寄って帰らん。・・・たまには宿題でも一緒にやらん。」

 A子はぱっと拒絶反応をしめし、「だめなん。F子と約束があるもん」

 A子のその顔もとから、昭子は「A子どうかしたん。ここんところ私の誘い、いつも断ってるもん。何かあるん。」

 A子はその問いかけにばつ悪さをまじえ「そうね、昭子にはごめんけど、F子が昭子との付き合いやめ、言うん。でないと他の友達とのつきあいもできなくなるって。私F子こわいもん」

 「どうして!どうしてそんなこといいだしたん。F子とは前からつきあっとったんとちがうん。」

 「うん、合唱の伴奏、学級委員長のB子と昭子、どっちにさせるかって聞き比べがあったんよね。それで昭子に決まったじゃん。F子は学級委員長のB子と仲良しになって、クラスの中でもはばをきかせたいんよ。だからF子はB子のご機嫌取りをしなければならんの。私、昭子に合唱の伴奏なんかすすめるんじゃあなかった。今はそう思ってるん。だけどもうしかたないもん。昭子ごめんね。そういうわけなん。」

 ひとりっこで両親と祖母、大人だけの愛情あふれるなか、人ずれなく育っていた昭子、とっさに『そんなばかな!』というすなおな怒り、はらだたしさにかられるのだった。

 ライバルが起因となって、嫉妬が生み出すゆがんだ人間関係、このころの昭子に分かろうはずのないことであった。

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