「表現芸術家ピアニストの生き様」掲載中

これまで一人娘で自分のしたいことだけに専念し、どちらかといえば他のことについてはのほほんと見過ごしてきた昭子であったが、同級生との比較、それも学級委員長との比較とあって、眠っていた競争心が今さらのように呼び覚まされてくる昭子であった。

「おばあちゃん、今度ある学習発表会、私たち『みかんの花咲く丘』の合唱をすることになったん。それでだれか伴奏のできる人は?てなって、結局ピアノ弾ける人、私と学級委員長のB子ちゃんだけだったん。それに歌う曲はその1曲。だから二人のうちどっちかってことになって、それで来週みんなの前で私とB子ちゃん、それぞれが弾いて、その弾き較べによってみんなで決めることになったん。私本気で練習せんと、B子ちゃんには絶対負けられへん」

祖母はその昭子の言葉に、これまでに抱いたことのなかった意志の強さを覚えるのだった。

かわゆいばかりに見守り育てられてきた両親と祖母のもと、競争心や優越意識をほとんど働かせたことなどなかった彼女であったが、初めて他人、競争者(ライバル)を強く意識する闘争心のような気持ち、表現芸術家ピアニストになろうとする欲求、を垣間見せた瞬間であった。

授業は終わる。先生から渡された伴奏譜。廊下を歩みながら真摯に見つめる昭子。その見る目の緊張がふっと途切れ、口ずさみ始めると譜面上に指をのせ動かし始めた。頭の中で、楽譜を指で追い鳴らしているのに違いあるまい。

一巡し、これまでオルガンで即興演奏に親しんできた昭子は、単純な伴奏譜に、ついいたずら心を起こす。

“みかんの”のシレファの和音に一度の代用和音を使ってみたり、独自にオブリガートを使用してみるなど、楽しみを抱く。

自分の得意とするもう一曲、この時点では得意といえるほど弾きこなせていたわけではなかったが、好きで弾きたい曲、ベートーベン『エリーゼの為に』をなんとしても弾きあげ、みんなに聞かせたい欲求に駆り立てられているのだった。

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