小説 20.合唱の伴奏(4) 2019年12月16日 音楽の授業に、声出し、歌は付き物、ましてや個人所有の楽器などほとんど持つことのできない物不足の時代。授業といえば声を張り上げる、歌、合唱が大半を占め、その伴奏に据え置かれたピアノは、昭子にとっても気になる置物であった。 人数は少なかったにしても、弾ける者にとっては関心を抱かないではおれないピアノ、学級委員長のB子は顕示...
小説 19.合唱の伴奏(3) 2019年12月9日 A子の家は母親が運営する、食料品から多少の事務用品、なんでもありの個人雑貨商店であった。 「あらー昭子ちゃん来たん。おばちゃん待ってたん。A子から話聞いてたん。どうぞお入り」 昭子はA子に従い、商品が陳列されている通用路を抜け母屋へと導かれた。 「たいしたものはないんだけど」そう言いながらA子の母はお盆に商品のラムネと...
小説 18.合唱の伴奏(2) 2019年12月2日 ざわつく室内。入口方面から足音が近付いてきて、昭子を始め気付いた多くの生徒達の注意はそちらに向く。 ドアは開けられ、先生の入室と同時にざわつきは引き潮の如くおさまる。 先生は手持ちしていた手帳を教卓の上に置くと、教室全体を一巡するかのようにぐるりと目配りし、大きめの声で「皆さん」と声を上げた。「お掃除きれいにできたんよ...
小説 17.合唱の伴奏 2019年11月25日 火のない所に煙は立たない。昭子は自分がオルガンを弾きピアノレッスンを受けていることを親友A子に打ち明ける。まさかこの何気ない会話が起因となって、のちのち、いじめを受けることになるなど思いもよらぬことであった。 そのA子とは小学校入学以来の親友で、教室での席順は離れていても同じクラス。見た目に合う合いそうにない、勘の働き...
小説 16.レッスン(5) 2019年11月18日 ピアノ譜面台に広げられた本、バイエル第40番。「今日はここからだったんよね」先生は言われ、「昭子ちゃんがどんどん先までさらってきていることは分かってるんだけど、レッスンには時間帯というものがあるんだからね」 昭子は早速弾き上げる。 楽譜を見追い、弾き終えるのを見定められて先生は「特に問題はないんだけど、次の41番からは...
小説 15.レッスン(4) 2019年11月11日 何よりもピアノ演奏を楽しみにし、それを生きがいのようにしているせい先生にとって、他のことは余程のことでない限りこだわりを持たれることはない。レッスンの付き添いについても、誰が着いてくるのか、ほとんど関心のないことであった。そのようなせい先生であったからなのか、昭子が来着しているにもかかわらず、演奏にふけって気付かれず、...
小説 14.レッスン(3) 2019年11月4日 これまで好きと楽しみだけで母とともに弾きこなしてきたオルガン、その姿勢の矯正、指摘を受けたことのない昭子にとって違和感を抱かないではなかったが、子供の順応力すぐに馴染む。 そして「これから次のところに入るんだけど」そう言って「ドレミレファミレドー」と先生は実際の音符の長さをはしょって口ずさみ、その楽譜のバリエーション部...
小説 13.レッスン(2) 2019年9月9日 ピアノ前の椅子に腰掛ける昭子。譜面台に置かれた教則本をせい先生は広げ 「26番まで弾いてきてるってことは、お母さんに習ったにしても、昭子ちゃん、 楽譜かなり読めるんだってことだし、楽典もそれなりに解ってるってことなんよね。 本の最初に書かれているちょっとした楽典なんか説明しなくっても大丈夫なんよね。 とにかくさらってき...
小説 12.レッスン 2019年9月2日 待ち遠しかった初回のレッスン。 昭子の両親が勤め人であり、遠方からの通いであることを考慮され、 土曜日午後3時半からのレッスン時間をやりくりされたせい先生。 我流であったとはいえ、先週昭子の弾くピアノを聞き、密かな期待をこめられてのことであった。 せい先生の母、あの先週の老婦人に案内され、入室した静子に昭子。 「お世話...
小説 11.バイエル・メトードローズ(2) 2019年8月26日 まずはバイエル。好きと、母の手ほどきで楽譜をある程度読み取れるようになっていた昭子。 その見る目に『えっ、こんな』と、予想外な表情。 彼女が期待していたピアノ指導教材それだけの内容を読み取ることができない。 バイエルについて、最初の気負いは無くなり、これはと、メトードローズを見開く。 バイエルよりは自分の音楽的嗜好性に...
小説 10.イエル・メトードローズ 2019年8月19日 この当時の事を振り返り杉谷昭子女史が言うに、 音が出て、音階があってその幅は広く、和音が出せる。 生まれつき音楽好きだった自身にとって、オルガンは最高のオモチャであり、 行き届いてはいなかったとは言え、母との長い間の音遊び、ピアニストとしての表現の自由さ、 豊かさを身に付けるにあたって、無くてはならなかった源泉期、と述...
小説 9.グランドピアノ 2019年8月12日 昭子は自分の事でありながら、談話は二人の蚊帳の外に置かれていることを見てとり、 そっと部屋の中を見渡す。何よりも目の前のグランドピアノ。 初めて見るその大きさといい、真っ黒な色といい、自分がこれまで慣れ親しんできたオルガンとは あまりにもの違いに異様さを抱く。しかし“触ってみたい”、その昭子の好奇心を、 せい先生は見取...