「表現芸術家ピアニストの生き様」掲載中

これまで好きと楽しみだけで母とともに弾きこなしてきたオルガン、その姿勢の矯正、指摘を受けたことのない昭子にとって違和感を抱かないではなかったが、子供の順応力すぐに馴染む。
そして「これから次のところに入るんだけど」そう言って「ドレミレファミレドー」と先生は実際の音符の長さをはしょって口ずさみ、その楽譜のバリエーション部分から先の部分を指差し、「このように変奏されていくんだけど、歌を歌うようにゆったり、テンポには気を付けてね」……「それでは先生が伴奏部分、昭子ちゃんはメロディを弾く。はい……」
弾き始めてすぐに昭子はこれまで一人で教材をこなしてきたつまらなさとは異なった快感を得る。
せい先生は楽譜通りにただ弾きこなすだけの昭子に、指の分離、独立、拍子とリズムについてのカウントの大切さ、スラーでくくられたフレーズは各音をレガートでつなげて弾く、そのため、次の音を弾鍵する瞬間まで前の音を押さえたままにしておくを指導する。続いて一番バリエーションの七番に出てくる休符の大切さ、そういった意識を植え付けさせること。また、十七・二十・二十一番などの左手に見られるような伴奏形では、第一指に力が入ってしまわないよう強拍に当たる三・四・五指に注意を向けさせることなど説明され、本日初のレッスンは終了。
これまでの緊張に包まれた雰囲気は一気に緩み、昭子は母静子の方を振り向き、せい先生は譜面台の教材を片付ける。そこに静子は近付いて行き「ありがとうございました」と一礼を交わし「少しお話が……」と話し始めた。「先生、これからのことなんですが、私、勤めと家事のことがありまして、これから昭子のレッスンには主人が付き添ってくれるというもんですから、次からのレッスンには主人が着いてくることになると思うんです。何かと気の利かないこともあるかと思うんですが、なにぶん宜しくお願いいたします」申し訳なさそうに言う静子にせい先生は「あ、そうなんですか、ご事情はよく分かります。いずれにしてもレッスンは昭子ちゃんが受けることですから」そう言って(気にされることはない)と承諾の仕草を示した。

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