「表現芸術家ピアニストの生き様」掲載中

煙立つ霧、森は芽吹き始め、小鳥たちがさえずるかのような華やかなパッセージと第2主題の展開が交替する。そして、小結尾でさらに愛らしい新楽想が登場し、フォルテまで高潮し、急激にデクレッシェンドして提示部を弾き終えるのだが、昭子ははやる気持ちを抑え、流れるような対位がつけられた8分音符を弾きとおす。歌い過ぎず自然な流れを大切に。

「しっかり弾き込んできているようですね」ベテラン教師、秋子先生の生徒に対する眼力は鋭く、昭子の努力を見据えた第一声であった。「はい」昭子は屈託なく応え、先生は言う。「これまでにもクラシック番組やレコードで聞き覚えはあったはずの曲だったとは思っていますが、実際にこうして自分で弾きあげてみてどんな印象を持ちましたか?杉谷さん」
昭子を覗き込むように見据える先生。「ハイ。音域の広い所とか、早いパッセージでは少し難しさもあったんですが、繰り返し練習し弾けるようになりました。」「そうね、貴女なりにはよく弾けていると思えますが、細かい所ではもっとこうすれば、そう思えるところが多々あって・・・」昭子の演奏を顧みる風を先生は示し「それでは楽譜を見ながら手直ししてゆきましょうか」
「あっ、その前にまずは貴女と先生とでこの曲についてアナリーゼし、貴女のこの曲についての捉え方、また考え方を聞きながら演奏づくりをしてゆくことにしましょう。
そのことは、この作品をどのように演奏するか、そういう上で大変に大切なことで、この作品が作曲された当時、作曲家がどんな状況の中どんな思いで作品づくりをしたのか、曲の表現の深さ豊かさを増す上でも重要なことなんです。作品がただの音の羅列になったんでは意味がないことですもの。」二人はピアノの譜面台に広げられた楽譜に目を向け話はじめた。

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