「ごめんくださーい…。」返答を待つかのように聞き耳を立て、間をおき、再び呼びかける。

奥の方から、ピアノ音楽と重なり、か弱そうな女性の声。

「はーい、すぐに参ります。」わずかな間合いの後、戸の裏に人の気配があって、開けられたかと思うと、

品の良い年配婦人が現れた。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」

上品な物腰である。

「初めまして、この度はご面倒をおかけする事になりますが...。」静子は言い、

恐縮の体でお辞儀をした。

「ま、どうぞ、中へお入りくださいませ。」手招きを添え、年配婦人は中へ入る事を勧める。

広い三和土。床に上がりやすい二段構えの上がり框。その立派な欅の框は、

来客の多いことを予想し造られたことを示しているかのようだった。

 勧めに従い二人は上がらせてもらう。案内に従い前室の低い床を横切り、

母屋のふちに当たる廊下を抜けると、中庭には池があって、それを誇がせる廊下伝いに離れ屋があった。

 ピアノ音楽が聞こえてきたのは、そこから漏れでて来た音がそうだった訳で、

レッスン室は、そのことをふまえ造られた離れ家の様だった。

 作りも母屋とは違い幾分か高さがあり、入り口は引き戸ではなくドアになっている。

婦人のノックが、弾かれる音で聞こえにくかったであろうことはそのせいなのか、

開けられるとともに音楽が止み、先生はゆっくりと二人の方を振り向く。

 40半ばの丸顔で優しそうにはあったが、凛として筋金のはいっていそうな知的人物。

年配婦人より離れ後ろに居た二人。「せい、来られましたよ」という紹介に、遠巻きながらの会釈を交わした。

 室内に通され。改めてお辞儀をする。静子は視線を先生から昭子に向け、戻し、

「こんな子なんですがどうかご指導の程、何卒宜しくお願いします」とばかり、

言葉に出し動作に表し懇願するのだった。

 「あなたが昭子ちゃんなんね、これから先生とのピアノレッスン頑張られるんかなぁ」

あやし掛けるように言われ、昭子は「うん」とばかり小首をかしげ、

気は入れているのだが無邪気に返事を返す。

 静子はすかさず気遣いをして「ウンではないんよ、ハイなんよ」とたしなめ、笑みをこぼしながら

「こんな子なんですが何卒宜しくお願いします。」とばかり言葉を添えた。

初対面の硬さは和らぎ、レッスン内容について先生は静子に説明を始めた。

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